2026年8月31日、セイドウパートナーズ株式会社、如水法律事務所、如水社会保険労務士法人主催による、第1回ガバナンス勉強会「成長企業のための実践ガバナンス座談会」を開催しました。
当日はIPO準備企業、上場企業の法務担当者にご参加いただき座談会形式で開催しました!
今回の勉強会では、労務・法務・IPOの専門家が、それぞれの立場から成長企業が直面しやすいガバナンス上の課題について議論しました。
主なテーマは、成長段階に応じたガバナンス設計、不正・不祥事の予防と対応、M&A後のグループ管理です。
共通して見えてきたのは、ガバナンスとは単に規程や制度を整えることではない、ということでした。会社の成長を支え、問題を早期に発見し、正しい意思決定を増やすための「経営の仕組み」を、どのようにつくるか。今回の議論から、特に重要だったポイントをいくつかご紹介します。
ハラスメント対策は「問題が起きてから」では遅い
社内のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに加え、近年では、従業員が顧客などから受けるカスタマーハラスメントへの対応も重要になっています。
特に小売業や接客業では、問題が起きた際に管理部門へ確認してから対応するのでは間に合わないケースもあります。どのような行為をカスタマーハラスメントと判断するのか、どの段階で上司へ報告するのか、警察や外部機関へ相談する基準は何かなど、現場が迷わず動ける具体的な対応方針をあらかじめ定めておく必要があります。
また、ハラスメント研修は一度実施すれば終わりではありません。一般社員には基本的な知識や相談方法を、管理職には適切な指導方法や問題の早期発見、自身が加害者にならないための注意点を伝えるなど、対象者に応じて内容を分けることも有効です。
ガバナンスは「形式」から「実効性」へ
IPOの視点からは、近年、決められた項目を形式的に満たすことよりも、各社が自社の状況に合ったガバナンスを考え、実際に機能させることが重視されています。
規程がある、委員会がある、社外取締役がいる。それだけでは、ガバナンスが機能しているとはいえません。大切なのは、その仕組みによって経営上のリスクが把握され、必要な議論が行われ、意思決定の質が高まっているかどうかです。
取締役会を「攻め」の議論の場にする
取締役会は、不祥事を防止するための監督機関としてだけでなく、会社の持続的な成長について議論する場でもあります。どの事業へ投資するのか、どの事業から撤退するのか、人材や資金をどこへ配分するのか、どのようなリスクを取って成長するのか。こうした重要事項について十分に議論する必要があります。
社外役員から意見を引き出す際も、「何か意見はありますか」と尋ねるだけではなく、M&A、人事・労務、財務など、それぞれの専門性に応じて具体的に問いかける工夫が有効です。
議事録には意思決定の過程を残す
IPO審査では、取締役会が実際に機能しているかを確認する資料として議事録が重視されます。「賛成多数により承認された」という結論だけでなく、どのような質問やリスク指摘があり、会社がどのように回答し、どのような条件で承認されたのかという議論の過程を残すことが重要です。
社長が全員を把握できなくなったら、仕組み化のサイン
創業当初は、社長がすべての情報を把握し、その場で判断することで会社が動きます。しかし、社員数や拠点、事業が増えると、社長一人による直接管理には限界が生じます。
- 社長の承認待ちで業務が止まる
- 部門や管理職によって判断が異なる
- 口頭承認や事後承認が常態化している
- 社長が社員一人ひとりの状況を把握できない
- 拠点やグループ会社が増え、情報が届きにくい
こうした状態が現れたら、管理職の役割や責任、決裁権限、契約書の確認方法などを明確にしていく必要があります。重要なのは、社長がすべてを確認し続けることではなく、社長が確認しなくても適切な判断が行われ、重要な情報だけが社長に届く仕組みをつくることです。
就業規則を整備するだけでは、組織は変わらない
成長企業では、就業規則や人事制度、決裁権限規程などの整備が必要になります。しかし、制度や規程を整えただけでは、実際の運用は変わりません。
「これまでは社長に口頭で確認すればよかった」「長く勤めている社員には例外を認めてきた」といった暗黙のルールが残ったまま新しい制度を導入しても、現場では混乱が起きます。
なぜこの制度が必要なのか、会社として何を大切にするのか、これまでの運用から何を変えるのかを言葉にし、社員へ丁寧に伝えることが重要です。
労働時間は「正しく記録できているか」が問われる
IPOを目指す企業では、労働時間の管理も重要な確認事項です。勤怠システム上の記録だけでなく、パソコンのログや入退室記録など、客観的な情報との間に大きな差がないかを確認する必要があります。
勤怠システムを導入しただけで管理が完了するわけではありません。記録を確認し、差異を検証し、必要に応じて是正するところまでが労働時間管理です。
契約管理は「誰が、何を確認するか」を決める
法務部門がない企業では、経理や総務の担当者が契約管理も兼務しているケースが少なくありません。すべての契約書を弁護士へ確認してもらうことが難しい場合は、リスクに応じた確認ルールをつくることが現実的です。
- 定型的な契約は社内で確認する
- 一定金額以上の契約は管理部門へ回す
- 非定型・長期・高額な契約は弁護士へ相談する
- 契約書の保管場所と管理責任者を統一する
AIや契約書レビューサービスも、確認漏れを防ぐ補助ツールとして活用できます。ただし、最終的な判断は人が行う必要があります。
不正は「悪い人」だけが起こすものではない
不正や不祥事は、特別に悪意を持った人だけが起こすとは限りません。過度な売上目標、上司からの強いプレッシャー、特定の人への権限集中、人手不足、悪い情報を報告しにくい雰囲気。こうした要因が重なった結果、小さなルール違反が重大な不正につながることがあります。
必要なのは、人を疑うことではありません。一人に判断や業務を集中させず、間違いや問題を早期に発見できる仕組みをつくることです。
内部通報制度は「窓口を置くこと」がゴールではない
内部通報制度で重要なのは、相談を受けた後の対応です。通報者の話をどのように聞くか、何を記録するか、誰と情報を共有するか、どの段階で調査を始めるか、通報者をどう保護するか。窓口担当者には専門的な知識と適切な運用が求められます。
また、「何でも相談窓口」とだけ案内するのではなく、「ハラスメントも相談対象です」と具体的に明記し、繰り返し周知することも重要です。
メンタルヘルス対応では、曖昧な特別扱いを避ける
メンタルヘルス不調者への対応では、善意による例外対応が、後のトラブルにつながることがあります。休職に入る条件、休職期間、必要な診断書、休職中の連絡方法、復職判定の手続き、休職期間満了時の扱いなどを明確にし、本人にも説明しておくことが重要です。
M&Aは、買収してからが本番
M&Aでは、契約の成立がゴールになりがちです。しかし、実際には買収後に、人事制度、労働時間、決裁方法、契約・経理体制、企業文化などの違いが表面化します。
すべてを統一する必要はない
親会社の制度を一気に子会社へ導入すると、従業員の不安や反発を招くことがあります。すべてを同じ制度にすることが、必ずしも正解ではありません。
子会社の独立性を維持しながら、重大な契約や投資、重要人事、不祥事や法令違反、訴訟・重大クレーム、資金調達、内部通報など、グループとして守るべき事項だけを統一し、親会社への報告・承認事項として明確にする方法もあります。
最後に問われるのは、組織文化
制度は変更できても、企業文化を短期間で変えることはできません。なぜM&Aを行ったのか、今後どのような会社を目指すのか、子会社の何を残し、何を変えるのか、グループとして大切にする価値観は何かを丁寧に伝える必要があります。
ガバナンスは「正しい挑戦」を支える土台
今回の勉強会を通じて、ガバナンスは規程やルールだけの問題ではないことを改めて感じました。
どれほど立派な制度をつくっても、経営陣が守らなければ社員には浸透しません。相談窓口を設置しても、相談を受け止める人に適切なスキルがなければ機能しません。M&A後に制度を統一しても、組織文化や社員の不安を置き去りにすれば、人材が離れてしまいます。
ガバナンスは、会社の行動を制限するためのものではありません。経営者が安心して権限を委ね、社員が迷わず判断し、問題が起きたときに早く気づくための仕組みです。
任せることは必要。でも、依存しすぎてはいけない。
人を信頼しながら、仕組みでは確認する。
セイドウパートナーズは、規程をつくるだけではなく、それぞれの会社に合った「実際に機能するガバナンス」の構築を、これからも支援していきます。
セイドウパートナーズでは、福岡・九州に限らず、全国の企業を対象に、IPO・内部監査・ガバナンス・コーポレート領域の支援を行っています。
東京証券取引所の各市場に加え、TOKYO PRO Market、福岡証券取引所・札幌証券取引所・名古屋証券取引所などの地方市場を含め、企業の上場方針や成長ステージに応じた支援に対応しています。
上場準備の初期段階から、上場後の内部監査・ガバナンス体制の高度化まで、お気軽にご相談ください。
